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疲労試験機の製作

このレポートは疲労強度の高いコアピンを製作するために加工条件、熱処理条件等を変化させた時の疲労強度特性を知る必要があるため、微小部品であるコアピン用の疲労試験機を試作し、実験したものです。

はじめに

近年、携帯電話やPC等の情報通信機器は急速に小型薄型化・高機能化されつつある。これら機器の部品の中にケ-ブルを接続するコネクタ-があり、部品として低背・狭ピッチ化が求められている。コネクタ-は一般に高分子の射出成形により製造される。この金型の部品がコアピンであり、例を図1に示した。0.3~0.5mmピッチの突起部を有し研削と放電加工により製作されている。材質的には工具鋼を使用し焼入れ、焼戻しを施すことによりかなり高強度となっている。

しかしながら、射出成形の繰り返しによって突起部に繰返し応力が作用し疲労破壊する。このため、より疲労強度の高いコアピンを製作するためには加工条件、熱処理条件等を変化させた時の疲労強度特性を知る必要がある。

今回、コネクター用コアピンの専門メ-カ-の依頼により、微小部品であるコアピン用疲労試験機を試作した。本報では問題点等を含めその製作について紹介する。 
図1 コアピンの形状とサイズ

疲労試験機の製作

1.疲労試験片

図1に示すような現物の疲労試験は困難であるため、できる限り現物に近い形状と寸法を考えた、また。射出成型時にコアピンの突起部に作用する負荷応力の様式は不明であるが、基本的には曲げ応力が繰り返し作用すると仮定した。以上のことを念頭に図2に示すような疲労試験片を採用した。疲労試験は図3のように、厚さ0.8mmの部分を固定し、0.2mmの部分に対して繰返し曲げ応力を作用させる様式とした。このため、段の部分には応力集中が作用することとなる。
図2 疲労試験片
図3 疲労試験片の変形

2.曲げ応力の算出

曲げ応力の算出に際しては図3に示すような矩形断面の片持ちはりを想定した。この時、固定端の曲げ応力σおよび自由端の変位yは次式によって表される。
a)応力振幅の負荷
疲労試験では、試験片に作用する応力を変化させながら、破断時の繰返し数を測定する。(3)式より試験片に作用する応力を変化させるためには振幅yとはりの長さLを変化させればよいことになる。

ここで、繰返し振幅yを得る方法としてクランク機構を採用し、振幅の変化はオルダム継手を参考にして偏心量を変化させることを考えた。機構の概要を図4に示した。固定円盤Aに対して円盤Bがスライドすることによって偏心量が変化する機構になっている。 これまでの疲労試験結果では疲労限が約1000 MPaと得られている。図2に示した試験片固定端の応力集中を考慮し、この近傍で応力振幅を変化させることとした。参考として、はりの長さを10mmとしこの時の変位量を式(3)から求めるとy = 1.58 mmと得られる。このことから、振幅は2mm程度あれば十分であり、余裕を持って3mmの振幅が得られるようにした。

前述のように、はりの長さLを変化させることによっても応力振幅を変化させることが可能である。実際の試験においては、偏心量を変えるよりもはりの長さを変化させる方が容易である。このため、試験法として、変位を固定してはりの長さを変えることにより応力振幅を変化させることとした。試験片取り付け状態を図5に示した。試験片固定具をスライドさせることによってはりの長さ(固定端から荷重点までの長さ)を変化させる。

試験片の押さえ方は応力を付加する上で重要なポイントとなる。つかみ方により試験片に対して曲げ応力以外の応力が作用する可能性があるためである。構造としては図6に示すように厚さ1mmの試験片押さえ板2枚により試験片を挟む様式とした。試験片接触部分には半径5mmの曲率を与えている。  
図4 クランク機構
図5 試験片固定具サイズ
図6 試験片押さえ
図7 自動停止装置
b)繰返し速度とモーターの選択
1個のコネクタ-を射出成形するのに7~8 secを要する。同じ繰返し速度で試験を実施するのが理想であるが、試験時間を短縮するため繰返し速度は6 Hzとした。また、将来、繰返し速度を変化させて試験することを想定して2~8 Hzまで可変とした。モ-タ-のトルクについては、はりの長さ10 mmに変位2 mmを付与するためには式(2)より1.6 Nの荷重をかければよいことになる。この時のトルクは0.0033 Nmとなることから、比較的小型のモ-タ-でも十分であることが分かる。以上のことからモ-タ-にはオリエンタルモ-タ-K.K.製レバ-シブルモ-タ-を採用した。定格が消費電力23 W、トルク0.4 Nm(1400 rpm時)のモ-タ-を減速比3のギヤヘッドを介して試験機に取り付けた。
c)自動停止装置
試験片が破断した場合、実験者が付いていなければ試験機をストップさせることはできない。106回(6 Hzで46.3時間)の耐久限を求めるような試験の場合には、昼夜連続運転が必要であり、破断時の自動停止機構が必要となる。このため、試験片に微弱な電流を流し、破断(電流が流れない状態)した際に試験機が自動的に停止する装置を製作した。 装置の外観を図7に示した。
d)繰返し数の測定
図4中に示したように、繰返し数はクランク後方に非接触変位計を取り付けてカウンタ-により計数した。

コアピン用疲労試験機の全体構成

図8に製作したコアピン用疲労試験機を斜め上方と正面から見た図を示した。前節に記述した事項以外に考慮した点としては
  • 摺動部にはベアリング使用した。
  • 試験片には自動停止装置用に微弱な電流を流すため、試験片固定部はアクリル板をベ-スにして絶縁した。図中赤青のリ-ド線は自動停止装置へ接続してある。
  • 試験片押さえ部の運動を安定化するためLMガイドを使用した。
  • 固定端から荷重点までの距離はマイクロメ-タ-により測定した。 
図8 コアピン用疲労試験機の全体構成

疲労試験結果

製作した試験機を使用して疲労試験を実施した。例を図9に示した。106回までを含めすでに数10本の試験片について実験を実施したが、試験機には何の問題も生じなかった。このため、疲労試験機としての耐久性に、問題は無いと判断した。
図9 疲労強度特性曲線

問題点

当初、試験片押さえ板にはS45C材を使用したが、疲労試験を実施した結果、試験片との接触部が摩耗する問題を生じた。このため、材質を工具鋼の焼入れ材に換え、試験を実施した。この結果、摩耗は減少したが、S-N曲線の形状が変化してしまった。この原因として、試験片のつかみ方により試験片に作用する応力状態が変化したことが考えられる。現在つかみの問題について形状、材質を含め検討中である。

おわりに

疲労試験機は、試験の性質上高剛性、高耐久性が求められる。当初、試験機自体の耐久性を心配したが、現在までのところ順調に稼働している。今後、さらに改良を加え、より信頼性の高い試験機として行く予定である。

試験機を共同で製作するととともに、今回、発表の機会をいただいた山形精研株式会社 染谷工場長に感謝いたします。また、日頃からご指導いただいている本学菅野幹男教授、松田則男助教授、 岡崎勝利助手に感謝いたします。
参考文献
1)樋口盛一、斎藤秀雄、“弾性及び材料力学”、養賢堂。
以上:山形大学 工学部 機械システム工学科 佐竹忠昭・鈴木和雄・高橋誠二 
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